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© 2016 by エフ・エム・エス / Emi CHATEAU-HIRASAWA

釘町彰(画家)

December 18, 2016

釘町彰(Akira Kugimachi) 1968年神奈川県生まれ。多摩美術大学絵画学科日本画科を首席で卒業。同大学院を経て、マルセイユ国立美術学校へ留学。1999年パリ第8大学大学院メディアアート科修士課程修了。2003年よりパリで画家としての活動をスタート。日本、フランス他各国で定期的に作品を発表している。

http://www.akirakugimachi.com

 

 

 

日本独自の技法で世界を切り取る手法を開拓する

 

 

釘町彰さんが描くのは、思わず吸い込まれてしまうような光が滲む風景。そこに更に一歩近づいて見入ると「地球の素材」が微粒化され散りばめられていることに気付く。岩絵具というその日本画特有の素材を用いながらも国境を越えた独自の世界を開拓したのは、画家としての位置を探しに訪れたパリだった。

 

 

アートの中で過ごした少年時代

 

 3歳から8歳までをベルギーで過ごした釘町彰さんは、母親に連れられて美術館や教会といった様々な場を巡り歩いた。美術に囲まれて過ごすのが当たり前の様な環境で、やがて何の違和感もなく、いわば無意識のうちに絵を描いていたという。日本帰国後もそれは変わることなく、将来の進路を決める頃には漠然と「自由に色と形を使う職業につきたい」と思うようになっていた。それでもまだ画家を志すようになったわけではなく、とりあえず美大のグラフィックアート学科を受験するが、失敗。浪人中の一年間はじめて真剣に自分と向き合い、自分は純粋に絵が描きたいと再認識した。

 

 

 

自由に素材と向き合える環境を求めて

 

 翌年に入学が決まった多摩美術大学で専攻したのは、日本画科。その理由は、油絵の匂いが好きではないということと、色が水に滲んで変貌する偶然性と共に制作するという水彩画の特性を持つ有機的な素材そのものに興味を持ったから。日本画材料として用いられる岩絵の具は、文字通り岩や砂といった鉱物を砕いて作られる。彼に言わせれば事実ブラジルやアフガニスタンから輸入される天然の鉱物は、それが岩絵の具として精製される技術自体は日本独特のものだとしても、日本という国の名前でくくれられるものではなくいわば「地球の素材」なのだ。そんな、地球の一部を画面に塗り込む、というアニミスティックな技法に惹かれた。そして入学して間もなく、すでに卒業後には海外に出たいと決めていた。大学に入るまでは想像したこともなかった、学閥や保守的な公募団体といった閉鎖的な日本画画壇に縛られることなく、自由に素材とその可能性に向き合いたいと思うようになった。大学ではとにかく描いて描いて描きまくった。そして、海外移住の視野が定まった大学院の二年間は、日本画の基本的かつ古典的な技法を徹底的に勉強した。それは海外に出たとき、むしろ伝統的な技法こそが武器になると確信していたからだ。

 そして1995年、フランスに渡り、マルセイユ国立美術学校への編入が決まる。

 

 

 

ただ描くのではなく、なぜ描くのか

 

 自由ではあるが、マルセイユの美術学校でも毎日作ることばかりに時間を費やし、違和感を覚える。

 絵を描く以前のこと、作品の存在価値や哲学。なんのために人は絵を描くのか…。作品の根幹となる思想やコンセプトを勉強し直さないといけないと痛感し、パリ第8大学大学院メディアアート科へさらに編入。在学中は、一旦絵筆をおいて、哲学や思想の本を読むことと論文を書くことに没頭し、自分が絵を描くことの意味について自問した。また、最先端テクノロジーを使った次世代のアートに触れ、違う視点から今のこの時代の「絵画の意味」も考えた。

 

 

 釘町さんの作品コンセプトの基盤となる論文「時間装置としてのアート(日本石庭から現代アートまで)」が書かれたのもこの頃だ。ビデオアートやインタラクティブアートで重要な役割を果たす「時間性」を絵画に取り入れることができるのではないか。そこで再認識されることになったのが、自分がこれまで使ってきた岩絵具だ。外に目を向けることで、実は自分の足元に豊かな可能性が広がっていたことを改めて確認した。人間の歴史なんか比べ物にならないほど以前からあるプリミティブな素材だからこそ、現代社会に訴えかけるものがあると確信した。

 

 

 

空間装置としての絵画

 

 釘町さんの作品は主に、揉まれて凹凸のある和紙を墨で塗りつぶした真っ黒の下地の上に、天然の岩絵具を幾度も重ね、塗り込んで作り上げられる。光を反射する油絵具と反して、日本画絵具は光を吸収する。そこで生み出されるのは、どこかぼんやりと浮き上がってくる、光。

 「ブラックホールのような窓」、あるいは「空間を活性化させる装置としての絵画」を作りたいと語る釘町さん。できるだけ遠くの世界を覗く、窓としての装置。その奥に見えるものは、幾層にも塗り込められた表面の更に奥にある黒い空間、宇宙だ。遠い宇宙を描くのに鉱物を使うのが最も適格かつ自然なことだと気付いた釘町さんにとって、天然の岩絵具は描く主題と素材のコンセプトが一致する手法となった。

 

Lightscape (colors) red, blue, gray (2016) 130.3x89.4cm each 20 Natural Pigments on paper mounted on woodpanel

/ Gallery DUTKO ©2016 Akira Kugimachi All Rights Reserved. (Photo Taku Jotoku)

 

 釘町さんの作品には、人は描かれない。その代わり、客観的に見る人を想定する「しかけ」のようなものが偏在している。それは、人間の痕跡のない、自然に淘汰された世界。人類史上最初の人間が見た風景、あるいはやがて人類が滅びた後の未来の光景のようなまるでSF的な世界だ。そこから示唆できるものは様々だが、無人の風景を描くことによって浮き上がってくる、人間と世界の関係というものへの問いかけなのである。

 パリでの修士修了後、初めて制作したシリーズは海を対象としたものだった。大小様々なサイズのキャンバスに描かれたSEASCAPEと題されたそのシリーズは釘町さんの最初のヒット作品となる。その後も、LIGHTSCAPEやSNOWSCAPE、SHADOWS、AIR といった自然や光をモチーフとしたシリーズを次々と発表している。

 また、建築的な視点で絵を捉えたい、という思いから、空間を意識した展示方法にも意欲的に取り組んでいる。風景を抽象的に切り取りながら、自然の元素を複数の色で表した13枚のパネルを水平状に並べて、建築的な空間を生み出すために試行錯誤を重ねた色パネルの作品(”Spectrum Horizont”)。 それは、現代アートの流れの中で、再度風景や自然、風景に対峙する視るものの立ち位置、そして自然からダイレクトに抽出された鉱物を素材として導入することによる新しい解釈のアブストラクトだ。

 

Spectrum Horizont (2012) 32.7x595.4cm (13panels) Natural Pigments on paper mounted on woodpanel

©2016 Akira Kugimachi All Rights Reserved. (Photo Akira KUGIMACHI)

 

 

 

噛めば噛むほど発見がある、パリ

 

 そういった、アーチストとしての位置づけや方向性を考えるきっかけを与えてくれたのが、パリだった。

 パリは、古いものと新しいものが同時に共存する街だと語る釘町さん。そして、絵画以外の様々なアートにも常に触れることができる刺激の多い街でもある。特に好きなのが、コンテンポラリーダンスと写真。学生の頃は足繁く劇場に通った。装飾を排した舞台で、照明と対峙する体の動きを高速化させる手法と、絵が出来上がる過程が重なるのだという。また媒体として光を扱う「写真」と多く触れ合うことができるのもパリならではなのだという。

 

Air#1,2,3 130x194cm each (2014) /Natural Pigments on paper mounted on wood panel 

Photo by Akira Kugimachi ©2016 Akira Kugimachi All Rights Reserved.

 

 

 

 自然やランドスケープばかりを描く釘町さんがあえて都会のパリに住むのはなぜだろうか?

 彼の言葉を借りるなら、「海の前にいたら、海を描く必要がない」のだ。

 釘町さんの主題とする「風景」はあくまでもコンセプチュアル。決して目の前のものを写すことではない。もちろん、時折り自然に赴き、光の美しさや、手付かずのプリミティブな荘厳さやディティールに圧倒され、インスピレーションをもらうことは多々ある。それでも還る場所はパリ。自然界の様々な情報を持ち帰り、都会の刺激と調合する。そこから、アブストラクトを希求するスタンスに切り替える。釘町さんがリセットできるのは、パリなのだ。

 パリでは不快なことも多々あるけれど、それでも「梅干しみたいに、噛めば噛むほど新しい発見がある」と、笑う釘町さん。深夜、古い石造の建物の間を歩きながら、突然歴史の深みを目の当たりにし、戦慄しながら様々な想像を膨らませることもあるのだという。

 

 

 

パリで日本再発見

 

 自分が慣れ親しんだ環境を離れ、はるばる訪れたフランスという国で、客観的に自分と自分の作品を見つめる術を知った。日本人としてのオリジナリティは何か?と自答自問し、日本の文化を再確認する必要性も感じるようになったという。仏教をはじめとする、東洋の思想や哲学にも興味を持つようになり真剣に学び始めたのも、パリに来てからのことで日本に居続けていたらなかっただろう、と振り返る。

フランスで得た美術の知識、培った感性などが、日本独特の世界観、そして日本独自の画法、技法と混ぜあい、調合され、釘町さんの作品のコンセプトを構成しているのだろう。

 

 

 また、日本画の技法を扱うことでフランスの気候に対応するためには相当の苦労があった。岩絵具の材料となる鉱物や、固着剤として使用する膠(ニカワ)はすべて日本から仕入れるが、空気が乾燥しているフランスでは、調合を間違えると作品の表面が割れやすくなる。東洋の素材をフランスで使うだけでこんなに苦労するなんて渡仏前までは考えつかなかっただろう。研究を重ね、乾燥にも耐えられるよう修復用の膠などを入れた調合法を開拓した。今では逆に日本に居た時よりもはるかに素材の微細な調整には気遣うようになり、それが現在では釘町さんの独自の絵画を作る重要な要素と成っている。作品に必要な素材をただ使うのではなく、常に状態に気を配りながら、敬う。そのように素材と真摯に「向き合う」ことも、フランスで学んだことだ。

 

 

ルーティンが創造性を産む

 

 釘町さんの一日の睡眠時間は 4 時間ほど。毎朝 6 時半に起きて子供達へリンゴのコンポート作るところから始まる。 アトリエでは常に複数のプロジェクトと様々な受注制作が同時に進行している。例え「やることがなくても」毎日規則的にアトリエに通う。アシスタントに指示をだし、作品の構想を考え、制作を進め、とあっという間に時間が過ぎてしまうが、昼食は比較的しっかりと摂る。 そして、どんなに忙しくても 19 時半には帰宅して家族と共に夕食をとる。家族全員が揃って食卓を囲む夕食の時間は、釘町さんにとってかけがえのないモーメントだ。しかし、それも束の間、21 時にはまたアトリエに戻り、翌朝 3 時ごろまで一人で黙々と制作に向かう。この生活を反復するルーティンの中から、新しい構想や制作意欲が生まれるのだという。

 週1,2回と週末の夕食は釘町さんが腕を振るう。自然と食卓に並ぶものは色彩豊かに美しく、と常に意識しているそう。料理をしている間は無心になれ、気分転換にもなるので、進んでキッチンに立つ。

 

 睡眠時間が極端に短い釘町さん。気になるエネルギー源は、毎朝必ず一つ食べるというリンゴ、なのだそう。その他、自身の体調管理のために気を使っているのが、食材の食べ合わせと、食べる順番。バランス良く食べるよう心掛けてはいるが、例えば肉とじゃがいもは同時に食べないようにしている。また極力、加工された砂糖や塩などの白いものは摂らずに、水以外の « 生命力のある水分 »であるという生野菜を多く摂るようにしているそう。

調理や食事に使う塩は、名産地ノワルムーチエの灰色の粗塩。

塩にこだわるのも、それが「鉱物」だからだろうか。

 

 

 

 

 

釘町彰さんご用達の店

 

 

ル・セルヴァン

「僕が時々仕事をお願いしている版画工房から目と鼻の先、工房で仕事をするときに職人さんと必ず来るところです。経営している姉妹がフィリピン系ということもあって、味が醤油系ベースのニューフュージョンフレンチで、日本人の好みにもピッタリです。」

 

©Edouard Sepulchre / Le Servan

 

Le Servan

32, rue Saint-Maur 75011Paris

TÉL : +33 1 55 28 51 82

営業時間 12 時-14 時半 19 時半-22 時半 土日定休

MÉTRO : Voltaire, Saint-Ambroise, Rue Saint-Maur http://leservan.com

http://leservan.com/

 

 

ラ・パイヨット・ダジー

アトリエと同じ通りにあり、頻繁に通う店のひとつ。 「中国南西部・ハイナン島独特の鍋料理が堪能できる数少ないお店です。ハイナン島はカンボジア、ラオス、ベトナム、香港に囲まれているということもあって、それらすべての地域が混ざったアジア料理。ここにこれを食べるために来るというくらい美味しいBouillon de Mouton(ブイヨン・ド・ムート ン。羊の肉、湯葉、椎茸、木耳、竹の子それに春菊の入った鍋)は圧巻。ここでしか食べられません。ひっそりとした店構えながら、カンボジアの大使がわざわざ車で来るほどの隠れた名店です。」

 

La Paillote d’Asie

2, rue Albert 75013 Paris

TÉL : +33 1 45 84 45 78

営業時間 12 時-14 時 19 時-22 時 日定休

MÉTRO : Porte d’Ivry

 

 

 

 

 

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お知らせ

 

釘町彰さんの作品は、只今パリのこちらでご覧になることができます。

 

 

Exhibition//展示
 "New winter display "Collection de la Galerie(ギャラリーコレクション展)”

Gallery DUTKO (St-Louis, Paris)

 

現在、大小6点の作品が展示されています。

 

期間:2016年12月5日より、2017年 1月31日まで

 

場所:Gallery DUTKO (St-Louis)

4, rue de Bretonvillier 75004 Paris
Open from 14:30-19:00 Monday to Saturday


more info www.dutko.com

 

 

 

 

 

 

 

Remerciements: 

Akira Kugimachi, Taku Jotoku, Gallery DUTKO, Le Servan, La Paillote d'Asie

 

 

 

 

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