#ParisMonogatari 

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© 2016 by エフ・エム・エス / Emi CHATEAU-HIRASAWA

小池千秋(フロリスト)

 

小池千秋(Chiaki Koike) 栃木県生まれ。明治大学仏文学学科卒業。2003年ワーホリビザで渡仏。東京「青山フラワーマーケット」勤務後、2007年再渡仏。パリで数々の花屋勤務を経て、2009年よりフリーランスのフロリストとして数々の店舗で活躍。パリのフロリストのエージェントとしても活動。

https://spark.adobe.com/page/qJUG9/

http://www.agent-de-fleuriste.com/main.html

 

 

「止まらない」発想で

儚き美を活かす術を育てる

 

 

そもそも「花屋になるなんてこれっぽっちも思っていなかった」小池千秋さんは、人々の日常を華やかに演出する才能を、パリで開花させた。美しいものは美しい、ダメなものはダメ、と素直に口にするフランス人たちの厳しい審査眼によって鍛えられたその感性と腕で、日々自由にブーケを束ねている。

 

 

 

 

言葉を通して触れたフランス文化

 

 お菓子作りが好きだった小池千秋さんとフランスとの出会いは、レシピ本の中で数々目にしたフランス語の専門用語。それらを理解できるようになりたい、と高校生の頃からフランス語を習い始めた。将来は「パティシエに」と専門学校に入学すべきか迷ったが、母の勧めもあり大学を受験。仏文学を専攻した。学部では、通常学校では学べないようなことも、まるでフランス人どうしで集うかのように体験することができたのだという。

 語学研修も兼ねて、大学一年の夏休みに初めてフランスへ。「生きたフランス語を学びに」とは言ったものの、何も話せず、何も理解できず、と悔しい思いをし、「話せるようになりたい」とその後も、毎年夏にはフランスを訪れるようになった。滞在先には、カンヌやモンペリエといった南仏の都市ばかりを「遠足が楽しそうだったから、という理由で選んでいました」と笑いながら話す小池さん。人生を謳歌することが絶対条件、と信じて疑わないフランス人気質がその時すでに備わっていたのではないかとも思えてしまう。

 フランス語にどっぷりつかった大学生活も終わりに近づき、就職活動を始めるが、語学を活かせるような職は見つからず、唯一合格した不動産会社で、新築マンションの営業として働くことになった。しかし、煙たがれるような作業が多く、しばらくするとすっかり気が滅入ってしまう。そして「もっと人に喜ばれるような仕事がしたい」という思いが募り、一年勤務した後ワーホリを申請し、再度フランスに行くこを決意。

 不思議なことに、「海外に暮らす」ということに対して恐怖や緊張を覚えた記憶がまったくないという。「外国にいる気がしない」居心地良さの中、いつしかインテリアコーディネーターという職業に興味をもつようになった。情報を収集していくうちに、とあるフラワースクールの情報を見かけ、受講することに。「お花はインテリアを彩るものだから」。軽い気持ちで半年間、アマチュアのフランス人マダム相手のブーケの作り方やアレンジの仕方を習った。それまで花に触れる機会などなかった小池さんは、「基礎中の基礎」レベルから学んでいった。もちろん、レッスンはフランス語。日本語ですらわからない花の名前をフランス語で諳んずる毎日。「面白いな」とは思ったが、まさかこれが自分の将来の仕事となるなんて、「これっぽっちも思っていなかった」。

 

 

 

お客様のためのブーケ

 

 帰国後すぐに直面しなければならなかったのが、「再就職」という現実。「今の自分には何ができるのだろう」と考えていた時、ふと手にした花の専門雑誌の求人欄に「初心者大歓迎」という広告を目にする。これが「青山フラワーマーケット(以下AFM省略)」との出会いだった。そして2004年9月から、アルバイトとして働くことに。

 新入りで未経験者同然の小池さん。最初の一年は専ら、掃除や水揚げといった下作業に専念した。葉っぱを処理し、切り、水につけ、商品として販売するための準備をする。それらの工程を「丁寧」にこなしていくことが求められ、とにかくついていくのに精いっぱいだった。しかし小池さんは「このときの経験が一番の修行になった」と清々しく語る。季節毎に変貌する花という生きた素材は、一年というサイクルを通して初めて少し理解でき、様々な花の種類の扱い方に対する知識も培うことができるからだ。そして、二年目になってやっとブーケを作ることを許されるようになった。AFMでは、すでに作られたブーケを店頭に飾り販売するというスタイルを主にとっていたため、モデルとなるブーケと同じものを作り続けるという仕事。与えられた時間内に、定められた数のブーケをひたする作る。それは「とにかく、時間との戦いでした」、と思い出す。しかし「作業をしながらも常に次にすべきことを考えて、段取りを組むという訓練にもなった」と語る小池さんはどこまでも前向きだ。AFMでの経験は、効率良い働き方を習得するための、彼女にとっての最高の修行となった。

 

 

 ブーケを作れるようになった小池さん。しかし、実際彼女自身が考案したブーケをお客様に提案できたわけではない。それはその当時、AFMのような大きな組織内で求められていることではなかったからだ。「お客様の声」、そして十人十色ともなるお客様一人ひとりのご要望に向き合い、ブーケを届けていきたい、という思いが芽生えてきた小池さん。AFMを離れる決意をする。 そこでまた就職活動をすることになるわけだが、その前にどうしても、また「パリに行きたい」と思った。

 

 

常に完璧でなくてもよい、という発想

 

 2007年1月。学生ビザを手に再度パリに降り立った小池さんは、マレ地区にある小さな花屋「Hysope&Cie (2010年閉店)」で見習いとして働くことになった。今までとは違う仕事。それは例えば、通りに面した大きなウィンドウディスプレイ設置のお手伝い。毎週活け換える、定期購買している顧客にお花を届けるという仕事。デザイン性高く、斬新なアイデアが詰まった、モダンなブーケを得意とするオーナーの技術と仕事への姿勢を日々目の当たりにすることによって、視点や感性が無意識のうちに養われていった。反復する作業ではなく、目の前にある花、花を活ける容器、そしてその花を求める顧客らと常に向き合うという「一期一会」な関係の重要性にも気づく。また、フランス人の仕事に対するスタンスは衝撃的だった。花を活けるという作業は、時に大変な忍耐を必要とすることもある。たった3時間展示するためだけなのに、幾日もの作業を必要とされるような仕事もある。モチベーションを下げることは許されず、嫌になったから放り出すというわけにはいかない。日本のように、常に完璧を目指していては続けようにも続けられない。「今、何を一番優先させるべきなのか」と臨機応変に状況を見抜くという技を教えてくれたのは、フランス人の同僚たちだった。必要に応じて適度に手を抜く。そんな「いい加減さが必要な時もある」という発想は、新たな選択肢として素直に受け入れることができた。

 

 

 自宅-職場-語学学校の往復のみ、遊ぶ時間もお金もなく、またテレビもネットもスマホもない当時の生活からは、必然的に日本語はシャットアウトされ、完全なフランス人社会の中で「生き延びる」術を模索した。自己主張の強いフランス人たちの中で、どうやって自分の立ち位置を確保すればよいのだろう?フランス語は必然的に上達していったが、「話せない」から「言ってもいいのかわからない」と思うようになったのは、日本人特有の遠慮や奥ゆかしさが邪魔していたからではないかと気づき、生来の明るさも手伝ってか、積極的に話しかけるようになっていったという。

 Hysope&Cieで一年間務めた後、次に見習いとして働いたのがStéphane Chapelleという大きな花屋。ブーケ販売はもちろんのこと、パーティーや、数々の高級ホテルのロビーなどで飾られる花、またルームサービスなどに添えられる花、と幅広く手掛ける花屋だ。それは、次から次へと大がかりな花の装置を作り上げ、送り込むという体力と時間との勝負。常にピリッとした刺激があり、また次から次へと責任のある仕事を任せられるようになる。「ノエル(クリスマス)を3度経験したから、3年務めていたんじゃないかな」。気づけば、「花」は時を計る導にもなっていた。

 

 

美しいものを美しいと言うこと

 

 店頭に立ちお客様の相手をすることも段々増えていった小池さん。花を買いに来る人たちは、それぞれが何かしらの「物語」を持ってやってくる。「好きな人のお誕生日」、「電車で帰るから邪魔にならない形」といったものから、好きな花、好きな色、そしてお値段の相談と、ありとあらゆる要望がある。それらを叶える魔法使いのような存在としての花屋は、お客様と向き合い、要望に最も適したブーケを作り上げる。日本では提案できなかったブーケも、パリでは当たり前のように受け入れられていた。

 「美しいものに対して美しいと言ってくれる、そしてダメな時にはダメと言ってくれる仕事仲間がいて、お客様がいます。自分が考えたことを聞いてくれる人がいるからこそ、提案し続けることができるんです」。地道な努力は評価されるが、現場はあくまでも実力主義だ。長い時間をかけたから良いというものではなく、いかに要望に応えることができたかがというのが重要。美しいブーケを作り上げるのが目標だが、「美」の基準は十人十色。「美しい」と言ってもらえないことには、認めてもらえたことにはならない。

 日本の修行時代に求められた、ある程度そろえていくスタイルではなく、お客様の要望にあうように臨機応変に作るブーケの表情に、敏感に反応してくれたオーナーの存在は大きかった。また、当たり前のように掃除をし、搬入された切り花の葉っぱ処理をし、花瓶を洗うオーナーを初めて見た時の衝撃は忘れられない。アシスタントが準備したものをただ活けていくばかりなのではなく、常に花とお客様と向き合うことこそが、花に活かされている「花屋」のあるべき姿なのだということを、学んだ。

 

 

 

いつの間にか、「花屋」に

 

 2009年からは、フリーランス・フロリストとして、数々の花屋とコラボレーションするというスタイルに切り替えた。社員として企業に貢献していくよりも、ひとつの場所で縛られず、また依存せず、経験を活かし、幅広く様々な形で花と向き合い、届けていきたいという気持ちが膨らみ、またそれが自分にあっているのだと分かってきたからだ。

 

 

ビザの更新のため、2012年末には一時日本へ帰国。年末年始を家族でゆっくりと過ごす…ことはできなかった。なぜなら、一年で一番忙しいその時期にじっとしていることができなかったから。向かったのは以前お世話になった青山フラワーマーケット。経験も実績も積み、また「パリ帰り」という「肩書」があるにもかかわらず、またアルバイトとして、繁忙期であるクリスマスシーズンのお手伝いをした。「お花屋さんが一番忙しい期間にじっとしていることが、できなかった」。理屈抜きで「花屋」になっている自分を認識した。 そして2013年春、晴れて「自由業ビザ」を手に、パリへ。

 

 「パリは自分にとって大切な場所だけれど、執着や依存はしたくない。自分の意志でパリにいるのだから、嫌ならすぐにでも日本に帰ればいい。だからこそ、いつでも終わりにできるくらいの覚悟、危機感を持ちながら、悔いのないように行動することを常に心がけています」。

 パリでのあっと言う間の10年が経ち、最近やっと仕事以外の事を考えられる余裕が持てるようになったのだそう。

 

 

  本業の傍ら「エージェント」として、パリで人気のフランス人フロリストのレッスンを受けてみたい、という日本人の方々の問い合わせ窓口、スケジューリング、そして通訳も含めたレッスン中のサポートとしての活動も開始。フロリストの指示やアドバイスなどを伝えるときに心がけているのが、意訳解釈なども含めた「わかりやすさ」。長年フランスで花を学んだ小池さんだからこそ選ぶことができる言葉は、常に適格だ。パリ1区の人気店「VERTUMNE」のクラリスさんとは、花に対する考えや方向性も似ているため、言葉の中に含まれるニュアンスなどもよく理解できるので、共に仕事することが多いのだという。そのクラリスさんがよく使う言葉が「OPTIMISER」(オプティミゼ -最適化するという意味)。限られた材料を用い、いかにして最も美しく見せるか。たとえ自宅用だからといって、雑で良いというわけではない。日々目に触れるものだからこそ、美しくあるべきなのだから。それは「花屋」としてだけではなく、常に美しいものに囲まれて生きていきたい、と思う小池千秋さんという一人の女性の願いでもあるのだ。 

 

 

 

「終わりのない」職業

 

 季節を通して変貌していく花々を見つめる小池さんの眼差しも常に移りゆく。暖かくなってくると、ベランダの植物が育っていくのを、まるで応援するかのように寄り添い、見つめる。寒い時期には残り物の花などを持ち帰りマントルピースの上に飾り、ドライフラワーに成りゆく過程を観察する。花は彼女の日常に浸透している。

 

 

 新たな試みとして、2016年冬から翌年の2月までは、日本産切り花を外国に広めるという日本の農林水産省の補助事業が、フランスで青山フラワーマーケット(2015年秋パリ店オープン)が主体となり展開されていて、小池さんは補佐役として、日本から届く花が卸されるランジスの花市場を頻繁に訪ね、状況調査のお手伝いなどに励んでいる。日本とは花文化が異なるフランスで、日本の花々を紹介し、両国の「花」交友に貢献する企画に携わることは、生産者が減少の傾向にある花業界を盛り上げるきっかけになるかもしれない、とやりがいを感じているのだそう。(詳しくはパリにおける日本産花き販売促進事業のFacebookページ http://www.facebook.com/fleursdujaponaparis

 

 花屋という職業は、「常に進化する、終わりのない職業だと思います。毎日新しいもの(花)が入ってくる。すると、新しいブーケのアイデアが浮かぶ。新しい花瓶を目にすると、今までとは違う活け方を考えてしまう。常に発想しているような感覚があり、どこまで行っても終わりがないように思うんです」。ブーケの好きなスタイルなども常に変化していくのだという。 自分が考える力を持っていないと生まれてこない創作力、それは「止まらない」、そして「終わりのない」発想力を生み出すのだ。

 

 

 

 

 

小池千秋さんのブーケに出会える(かもしれない)お店

 

花屋での勤務は不定期です。ブーケのご注文は個別に受け付けています。

また、自身のアトリエにでブーケのレッスンやその他のお問い合わせも受け付けておりますので、ご興味のあるかたは、お問い合わせください。

contact@agent-de-fleuriste.com

 

 

シルヴィーヌ・フロール

Sylvine Fleurs

98 Rue Beaubourg, 75003 Paris

Tél 01 42 71 31 35

営業時間 8時-19時

日定休

メトロ Arts et Métiers

 

 

ドゥボーリユー

Debeaulieu

30 Rue Henry Monnier, 75009 Paris

Tél : 01 45 26 78 68

営業時間 火-土10時半-20時 (金土は20時半まで) 

日 10時半-14時 月14時-20時

無休

メトロ Pigalle, Saint-Georges

http://www.debeaulieu-paris.com/

 

 

ヴェルチューム

Vertumne

12 Rue de la Sourdière, 75001 Paris

Tél : 01 42 86 06 76

営業時間 9時-19時半 (土は11時から)

日定休

メトロ Pyramides, Tuileries

www.atelier-vertumne.fr

 

 

 

 

アレンジレシピで彩る食卓

 

 

  あまり外食しないという小池さんの基本は、自炊和食。新しいレシピに挑戦するのは大好きだと言うが、そこでも必ず「決められた通りにはできない」故、「自分流」のアレンジを加えてしまうのだそう。「店に立つことと、キッチンに立つことってよく似ていると思うんです。冷蔵庫に入っているものを調理して一番おいしいと思うものを作る。それって店に置いてある花だけを使って束ねるブーケみたいなんです。正解はない。でも素材はたくさんあって、その素材の分だけ可能性が散らばってる。レシピ通りに作るのは簡単だけど、レシピ以上のものを作るのはいつもワクワクしまう。美味しい料理ができたら、美しいブーケが出来上がった時と同じように、満足している自分がいるみたいな気がします」と小池さん。 友人たちを招いての「おもてなし」の場では、もちろんたくさんアレンジされたお料理と気遣いを忘れない。テーブルにはもちろんお花は添えるのだろう、と想像してしまうが、料理で埋まってしまうため、お花を飾るスペースはいつもどこにも残らなくなってしまうのだそう!

 

 

小池千秋さんご用達の店

 

ル・セヴェロ

スタミナを必要とする仕事を控えているときに訪れるという「最高級の肉を提供する」肉料理専門のビストロ。タルタルステーキは食べごたえたっぷり。

LE SEVERO

8 Rue des Plantes, 75014 Paris

Téléphone : 01 45 40 40 91

営業時間 12時-14時 19時半-22時

土日定休

メトロ Mouton Duvernet/ Alesia /Pernety

http://www.lesevero.fr/

 

 

 

 

 

 

 

 

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お知らせ

 

2017年2月中旬より、

VERTUMNEフロリスト、クラリスさんの

4度目の来日レッスン(福岡、名古屋、東京にて)が開催されます。

詳しくは、http://ameblo.jp/agentdefleuriste

受講されたい方、またお問い合わせは contact@agent-de-fleuriste.com で。

 

 

 

 

 

 

 

Remerciements: Chiaki Koike, Sylvine Fleurs, Vertumne

 

 

 

 

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